こんにちは。家族の旅行代を会社のカードで払う社長に頭を悩ませているイノタスです。
今回はお給料のお話しです。
先日、社長から「俺の給料って増やせないんだよね?」と聞かれたので、「基本的に今期中は無理ですね」と答えると、「いつからなら増やせる?」というやり取りがありました。
社長は少し前に「役員報酬は決めた額しかもらえない」という話を税理士から聞いたそうですが、去年の年収(独立前)が相当高かったため、先日届いた"住民税額決定通知書"を見て「こんなに引かれたら生活できない😭」と焦ったらしく、わたしに聞いてきました。
起業したての今期は自分の給料(役員報酬)を低く設定しているため、こういったことが起こったわけです。
では、「社長の給料は増やせない?」「役員報酬と給与の違い」について解説していきます。
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社員と役員の違い
まず、「社員(従業員)」と「役員」の違いですが、会社に関わる法律ごとによって以下のように区分されています。
- 役員(取締役・会計参与・監査役):会社の業務執行に関する意思決定や監督を行う者
- ※従業員:会社の経営方針や指揮命令に従って働く者
※会社法において「社員」とは「株主」のことを指すため「従業員」としました
- 役員:「使用者」として労働者に該当しないため雇用保険、労災保険の対象とならない
- 会社と「委任契約」を結ぶ
- 社員:「労働者」として事業(会社)に使用される者で、賃金を支払われる者
- 会社と「雇用契約」を結ぶ
- 役員:会社法で定める役員に加え実質的に経営に従事している者(みなし役員)も含む
- 役員への給与(役員報酬)には「定期同額給与」(一定期間毎月同じ金額を支払う)などの支給ルールがある
- 社員:上記に該当しない者
- 社員へ支払う給与には基本的に制限がなく、全額を経費にできる
特に法人税法上においては、会社法上の役員よりも適用範囲が広くなっているため、税務上の扱いには注意が必要です。
なお、社員から役員に昇進する際は雇用関係が変わるため、一度退職して改めて委任契約を結んで就任することになります。
なので、退職金の支給規定があれば、たとえ翌日からこれまでと変わらず出勤するとしても、規定に従って退職金を受け取ることができます。
役員報酬と給与の違い

では、役員と社員(従業員)の違いを知ってもらった上で、本題に入っていきます。
社長の給与は増やせない?
先述したように「役員報酬」の支給には、以下のような法人税法上のルールがあります。
- 定期同額給与:原則として1年間毎月同じ金額を支払い、増減できない
- 事前確定届出給与:賞与を支給するには予め税務署に支給時期と支給額の届出が必要
- 利益連動給与:(一定の要件を満たすことで)利益に応じて支給される報酬
※③利益連動給与は「有価証券報告書」の提出企業(主に上場企業)しか利用ができない制度です。
社員は昇給できたり、会社の業績や個人の成績によってボーナスや歩合給をもらえますが、役員の場合は予め決められた金額しかもらえません。
なので、たとえワンマン社長でも「今期は業績がいいから俺もボーナスをもらうか」とか「住民税がきついから役員報酬を増やそう」といった"臨時的な増額"はできません。
また、減額についても、会社の経営状況が著しく悪化した場合などの特別な事情を除いて、やはり認められていません。
したらどうなる?
もし、上記のルールを破って役員報酬の増減をした場合は、以下のペナルティーが課せられます。
■役員報酬を「増額」した場合
"増額した部分の金額"が経費として計上できなくなります。例えば、毎月50万円の役員報酬を80万円に増額した場合、増額した30万円分は経費として認められません。
(グラフ)
なので、
■役員報酬を「減額」した場合
減額後の報酬額が「定期同額給与」と認定されるため、"減額前の多く払っていた部分の金額"については経費として計上できなくなります。例えば、毎月50万円の役員報酬を30万円に減額した場合、減額前に多く払っていた20万円分については経費として認められません。
(グラフ)
なので、
役員報酬を変えられない理由
これは、利益の恣意的なコントロールを防ぐためです。特に、過度の節税を防ぐ目的があります。
ほとんどの中小企業は、経営者が会社の株の過半数を持っているため、自分を含めた役員の報酬を自由に決めることができます。なので、これに制限を設けないと、「今期は利益が出そうだから、役員報酬を増やして税金(法人税)を安くしよう」といった調整が容易にできてしまいます。
極端な話、役員報酬の支給に制限がなければ、決算前に利益分をそのまま役員報酬にして(会社の利益をゼロにして)、法人税を毎年でも払わなくて済むということができてしまいます。
こういった利益操作を防ぐために、税法上いろんなルールを設けているわけです。
役員報酬額を変更するには?

原則、一度決めるとその事業年度中(次の決算の翌月まで)は変更できない役員報酬ですが、変更する際は以下のルールに従って行います。
役員報酬を増減できる時期
原則、「事業年度の開始日(期首)から3ヶ月以内」と決まっています。なので、4月1日が事業年度開始日(3月決算)の会社の場合、6月末までの間であれば変更ができます。(会社設立時の場合も同様に、3ヶ月以内に役員報酬を決定します)
この時期を過ぎてしまうと、次のタイミング(来年度の同時期)まで変更できなくなります。
役員報酬変更の仕方
変更手順としては、
- 株主総会を開催
- 役員報酬の変更を決定
- 議事録を作成し保管する
という流れになります。
これは、たとえ"社長1人だけの会社"であっても、この手順を踏み一定の書式に従って議事録を残す必要があります。
なお、前項の「3ヶ月以内」というのは、上記の変更手続きの期日を指しています。
「特別な事情」により変更できるケース
基本的には上記の方法でしか役員報酬の変更はできませんが、以下のような「特別な事情」がある場合に限り、上記期間外でも変更(増額・減額)が認められています。
■ 臨時改定事由
- 従業員が新たに役員になった
- 肩書きが上がった(常務→専務、副社長→社長など)
- (外部から)新たに役員として採用した
- 役員が退職した、従業員に戻った
- 肩書きが下がった
- 不祥事があった
- 行政処分を受けた
■ 業績悪化改定事由
これは"減額"のみできるケースですが、国税庁によると「経営状況が著しく悪化したことなど、やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があること」という場合に改定できるとあります。
ただ、「一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれない」とあるので、「赤字になりそうだから」とか「お金が足りなくなりそうだから」といったような、"その会社だけの都合"での減額は認められていません。
なお、国税庁が示している"減額せざるを得ない事情"の具体例ですが、
- 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
というように、利害関係のある第三者との間に「減額せざるを得ない客観的な事情」が生じている場合を示しています。
※「役員給与に関するQ&A」(国税庁)に詳細が載っています
「みなし役員」とは?
最後に、「社員と役員の違い(法人税法上の区分)」のところで出てきた「みなし役員」について説明します。
法人税法上においては、会社法で定められている「役員」とは別に"役員としてみなされる社員"というのがいます。これを「みなし役員」と言います。
- 役員(会社法上):取締役、監査役、会計参与、理事、監事など
- 会社の謄本に登記されている人
- みなし役員
- 実質的に経営に携わっている者:会長、相談役、顧問など
- 登記はされていないが、主要な業務執行の意思決定に参画している
- 同族会社の社員のうち、株式所有割合の要件を満たす者で経営に携わっている者
- 同族会社:少数の株主(3人以下とその同族関係者)が経営権を掌握してる会社
- 株主所有割合の要件を満たす者:※こちらに詳細が載っています。
- 実質的に経営に携わっている者:会長、相談役、顧問など
「みなし役員」に該当すると、たとえ社内では肩書きのない"平社員"であっても、税法上は役員として扱われるため支給される給与は「役員報酬」に該当します。なので、先述した方法に沿って給与を支給・改定しないと、税務上ペナルティーが課せられるので注意が必要です。
これは、役員報酬の支給規定の"抜け道"を防ぐためにあります。「みなし役員」規定がないと、例えば、社長が奥さんを従業員にして、自由にできない自分の給与の代わりに奥さんの給与を自由に増減したり、不当に高い賞与を払ったりすることができてしまうからです。
なお、多くの中小企業では、社長が大きな決定権を持っているため、親族(特に奥様)が従業員になっている場合、実際はそうでなくても「経営に従事している」とみなされやすいので注意が必要です。
おわりに
最後まで読んでいただき、ありがとうございましたm(__)m